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2007年2月12日 (月)

余市アイヌの伝説

北海タイムス 昭和5年9月3日

「余市アイヌの伝説(上)
 突如王城を襲撃する一団
 イヨイチコタンの戦」

本社小樽支局主催清遊会の会場山田村付近及び余市町に余市アイヌの遺跡や伝説が多い参加団員の為に余市旧土人違星梅太郎氏の談に依るそれ等の伝説の二三を摘記してみる

 余市町大字大川町山田村現木内萬之氏住宅の裏の山上に一団のアイヌが部落を成しチヤシ(城塁)を築いて居住してゐた 之が現今伝へられる余市アイヌの遺跡であり古戦場の跡でもある 此一団のアイヌは此処を安住の地と定めて至極平穏に生活を営み続けて居たがある日日高国沙流付近に居住するアイヌの一団が赤井川村白井川の流れに沿ふて下りこのイヨイチアングルが王城の地であるイヨイチコタンを襲撃した 突如の襲撃であり且武装せる大軍の敵である 防備は不十分であり油断があつた 猛然イヨイチアングルが鉾をもつて起つた時はすでに遅く味方の大将が敵の射手の為咽喉を打ぬかれ即死して味方の意気は全く沮喪し戦ひは既に利あらずチヤシは此処に占領され敵の蹂躙に委せようとしたその刹那ペツセンカ(河岸のつゝ立つた上の意味で現茂入山遊園地の附近)より突如チカップのコタンカムイが現れた(之は鳥の神様で土地の産土神) 猛然チヤシを占領せんといきり立つ敵軍に向つてコタンカムイは両翼を張り猛襲した それが為即死したもの重傷を負ふたものが数知れず戦況俄然一転して味方は大いに力を得大奮戦の結果勝利を得た この戦に破れた敵のアイヌ族はその残存者が此処に永住して了つた 今尚その子孫が現存して居り之が即ち余市旧土人種族中のユウペトングル族なのであるが彼等は祖先をサルマイガシ(翁の意)と称して崇拝して居る
 斯くてイヨイチングルは武威四方に輝き隣村各族を併呑し勢力益々拡張するに至つたので山田村のチヤシを捨てモイレ(現茂入附近)ハルトリ(現浜中町役場付近)に転住するに至った 此時代に違星君一家の祖先である三宅家がこの地に漂着したのであつた。(未完)

管理人  ++.. 2007/02/12(月) 03:46 [303]

北海タイムス 昭和5年9月4日
「余市アイヌの伝説(中)
 神罰にふれ 沖へ/\と漂流
 三宅家のローマンス」

 三宅家の祖先が茂入に漂着する迄には斯うしたローマンスがある、もと/\三宅家はザンザラケツプ即ちヲタルナイといはれた銭函付近に一大家族を擁して住居して居たのであるその背後の崖に洞窟がありそれに一家の宝物を納めて居た アイヌ語で此洞窟をイゴロツプといふ、ある年の夏同家では宝物を洞窟から出し今日でいふ土用干をしてゐた 恰もその時アイヌ族が最も崇拝して居るレブンカムイ即ち鯱が数十頭列をなして沖合より遊泳し来りこの宝物を眺めて居た 処が一人の愚者があつてレブンカムイに向つて「イヤニ、タンナンベ、イシコレエ■ン」……あなたこんな結構なものをもつて居るか?……とからかつた、すると神罰は立処に起り突然轟然たる大音響と共に背後の崖は崩れ落ちイゴロツプも家も人も悉く埋没して了つたのであつた 僅に生き残つた三宅家の主人は日頃数多の神を祀り信仰し居るにも拘らず斯様な愚者の言に依りて一家に神罰を与へるとはあまり慈悲のない仕儀だとて彼は永年住み馴れたザンザラケツプを捨てポンチツプ(小舟)に乗じ櫂を捨てゝ運を天に任せ沖合へ/\と漂流した、漂流する事幾日であつたかは彼も知るを得なかつたが神も彼の心根を嘉し賜ひしものかメナス(東風)に押れ/\て余市の現茂入岬付近の沖合に漂着したのであつた、突然海上遥かに流れて来る小舟の影を発見したイヨイチングル族は舟に人ありと見てイナヲ(幣)で上陸せよと合図した 彼も幸運に一命が助かり同族の姿を陸上に見るを得たので、取敢ず陸にあがり総ての事情をサバネグル(酋長)に物語つた、奇しき彼の運命に同情の涙をそゝいだ酋長は彼の娘と結婚せしめコタンパ(部落の端の意)のニボロ(現登川附近)に別居せしめた、之こそ同族の為に心骨をそゝぎ若くして病に倒れた純情熱血の青年違星瀧次郎君の先祖なのである イヨイチングルは彼をコタンパイガシと呼んでゐた

管理人  ++.. 2007/02/12(月) 03:47 [304]


北海タイムス 昭和5年9月5日
「余市アイヌの伝説(下)
 自由の歓楽境を 
 襲ふ怪物
 産土神祭夜の惨劇」

 イナオを樹(た)て織筵(おりむしろ)を敷き篝火を焚(たき)土器にもれる酒を汲交(くみかわ)して踊り狂ひ歓楽を恣(ほしいま)まにするコタンカムイノミ(産土神祭)の夜が来た、産土神祭は年一回サバネグルの宅で催されるものであつて彼等種族の最大神事であると共に彼等に与へられた自由と享楽の一夜でこそある、其夜この歓楽境を修羅の巷とかき乱し享楽に陶酔した男の子が鉾を手に取らねばならぬ惨事が突発した、モイレの部落から程とほからぬテイネ余市橋の稍(やや)上流にあるアイヌの一家は男といふ男が祭典に出席のため出て了ひ女のみ留守居してゐた その夕方の事シユンゲグルといふ女が怪物の姿を発見した 人に似て人に非ず獣に似て獣にあらざる怪物で彼女は驚き慄へて斯くと部落の者に告げた、然し彼女じゃ常に虚言を吐き偽る事が多いので何人も彼のいふ事を信じなかつた 然るにその夜に至りその附近のメノコが表に出るトタン件の怪物が現れたのでアヤボ/\と(大変々々の意)悲鳴を揚げ騒ぎまわる間に怪物は悠々その家に闖入して二名の子供を食ひ殺して了つた、聞くからに恐ろしき惨虐である、鮮血はあたりを染(そめ)平和なる部落の一端に血なまぐさい風が瀟々として吹く、厳粛なる神事が型通り行はれ神酒が列座の膝から膝へまわる頃の酋長宅に此悲報が達しられた スワ!すべての男の子は立つた、平和を掻乱す外敵に対して常に共同戦線を張る彼等種族の血は燃えて一斉に起つた、「復讐だ」「同族のために外敵をたほざずには置かぬ」と鉾を取り炬火をかざしてまだ少女の■に舌なめずりして立ち去り兼てゐる怪物を包囲したが件の怪物は巧みにモイレの山に遁走して了つた 切歯扼腕した彼等の一団はその翌日を期し茂入山を狩立てたのである 弓、矢、鎗、それ/゛\の武器は血に飢えて不気味な光を放つてゐる「けふこそは一番槍」を投げてサバネグルの賞讃を得んものと勇みに勇んで茂入山に殺到した この結果は遂に彼の怪物を退治し得た、怪物は熊ともいはれてゐる、この怪物退治の一番槍は三宅家の一員でその槍(竹の先に小刀を結びつけたもの)は三宅家の宝物として今尚違星家に残されてある、斯ふした幾多の物語を持つ余市アイヌは今度の清遊会に際し伝統的川狩の有様を会員に鑑賞せしめる事となつて居る


管理人  ++.. 2007/02/12(月) 03:50 [305] 

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