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2008年11月 4日 (火)

北斗はいつ短歌をはじめたか

 北斗がいつから、短歌を詠み始めたかは、はっきりわかっていません。

 ただ「北斗はバチラー八重子の影響で短歌を詠み始めた」と書いてある本がありますが、それは間違いだと思います。

 草風館の95年版「コタン」で現在確認できる一番古い短歌は自働道話大正十三年十一月号に掲載された次の一首。
 
  外つ国の花に酔ふ人多きこそ
  菊や桜に申しわけなき

 上京前の短歌としてはこの一首のみです。
 では、本格的に短歌を作り始めたのは、東京から北海道に戻って来てバチラー八重子に会って影響を受けたからなのかというと、そうでもないようです。

 大正14年5月1日、伊波普猷は「目覚めつつあるアイヌ種族」で北斗のことを書いていますが、その時すでに北斗は短歌を詠んでいました。

 違星君はあまり上手ではないが和歌でも俳句でも川柳でも持つて来いの方です。

 と、書いています。もちろん、この時点で北斗はバチラー八重子とは会ったことがなく、一度手紙をやりとりしたのみです。

 もちろん、その手紙で八重子から短歌を勧められた可能性があるではないか、という考えもできなくもないですが、これも違うと思います。

 大正15年3月5日の釧路新聞に、北斗のことが紹介されています。北斗がまだ東京にいる頃、歌人として有名になる前で、一人のアイヌ青年として紹介されています。
 北斗の人となりを紹介し、昔は和人への敵愾心に燃えていたが、青年団に入ったことによって、人間愛を知り、今は東京の西川光次郎の元で社会事業に従事している、というような内容です。
 この記事の中に、次のような記述があります。

 是は此の青年の告白で復讐心に燃えて居た時代にノートに書き付けた歌と此の頃の感想を陳べた歌とを相添て道庁の知人の許に寄せて来たが是等は学校の先生、青年指導の任にある人々には何よりの参考資料だ

 つまり、道庁の役人に送られてきたノートには、青年団に入る前の、「復讐心」に燃えていた頃の短歌と、青年団に入り、「人間愛」を知ってからの短歌が書かれているということです。是等とあるので2冊あるのかもしれません。
 この通りだとすると、東京に来る前の余市時代、青年団に入る前からけっこうな短歌を作っていたということになります。

 もちろん、バチラー八重子の影響もあったでしょうし、それ以上に実は、金田一から若き日にともにあった啄木の話をよく聞いたそうですから、その生々しい話の刺激もあって、上京後に本格的に短歌を作り始めたのだと思います。
 
 ところで、その道庁の役人に送った北斗のノートとやらは、どこにいってしまったのでしょうね。
 実はまだ道庁のどこかにあったりして。
 
 

 

道庁云々で思い出したのですが、「目覚めつつあるアイヌ種族」の中に、次のような所があります。

あとで金田一君が違星君は画も中々上手であるといつて、アイヌの風俗をかいた墨絵を二枚程出しましたが、なるほどよく出来てゐました。博文館の岡村千秋氏が、北海道の内務部長に自分の友人がゐるが、この絵に皆で賛を書いたり署名をしたりして、奴におくつてやらうぢやないか、さうしたら、アイヌに対する教育方針を一変するかも知れないから、といつたので、中山氏が真先に筆を走らして、「大正十四年三月十九日第二回東京アイヌ学会ヲ開催シ違星氏ノ講話ヲ聴キ遙ニ在道一万五千ノアイヌ同胞ニ敬意ヲ表ス」と書き一同の署名が終りました。

 この岡村千秋の知り合いの内務長官に送った「署名」と関係あるんでしょうか?
 この寄せ書きされた画は、写真に撮ってあったようで、伊波は「沖縄教育」の又吉康和にも焼き増しして送っているようですので、道庁にも写真を送ったのかもしれません。
 この署名が後日、ひはり句会に持って行った「『東京アイヌ学会』で知名の士から『よき書』をしてもらった記念のまくり」だと思いますので、オリジナルは北斗が持っていたということでしょうね。

 この大正15年当時の北海道庁の内務部長は百済文輔。直前に東京府の内務部長をしていたので、岡村千秋とも知り合いだったのかもしれません。その後も奈良県、群馬県の知事、台湾総督府殖産局長、小倉市長などを歴任したようです。

 

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