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2012年6月

2012年6月10日 (日)

違星北斗発見の土偶

北斗が発見した土偶が、北海道開拓記念館(札幌市厚別)の「北の土偶」展(2012年3月6日~5月13日)に展示されていたとお聞きして、図録を取り寄せました。

これです。

595178222

北斗が考古学的なことに興味があったことは、「フゴッペ論文」などの記述からも明らかでしたが、このような形で残っているとは感激でした。

Photo_3

実物が見てみたいのと、北斗がこれを発見した時期やシチュエーションが知りたいですね。

発見時期として考えられるのは、おそらくは北斗が余市での郷土研究に力を入れ始める昭和3年頃ではないかと思いますが、実際のところはわかりません。

北斗が発見した考古資料としては、投網をしていて余市川から発見したスイカ大の土器(山岸医師に寄贈)がありますが、他にも北斗が見つけた考古資料があるのかもしれませんね。

Photo_5

↑北海道から東北、北関東にかけて出土した土偶が沢山掲載されていて、眺めているだけで楽しいです。土偶マニアの方にもおすすめ。

(図録「北の土偶 縄文の祈りと心」、編集/北海道開拓記念館、発行/北海道新聞社)

2012年6月 4日 (月)

北海秘話 魂藻物語 (其の一)

 違星北斗が日高各地のコタンを巡り、啓蒙のために「子供の童話」「自働道話」などの雑誌を配っていた時に出会った、長知内小学校の先生、奈良農夫也

 北斗はアイヌ語に関する造詣に関しては金田一京助以上だと評する奈良に、アイヌの昔話を童話として書いて欲しいと頼み、そして奈良が描き上げ、「子供の童話」昭和2年2月号に掲載されたのがこの作品です。

 (其の一)と(其の二)に分かれています。

 (其の一)が、この伝説の伝承者、老媼、テコロタロから聞き取ることになった経緯や、趣意などを沙流山人(=奈良農夫也)が書いたものです。

 (其の二)が、伝承昔話「魂藻物語 (シサム ウェペケレ コモムト゜チ)」です。こちらの方が読みやすいです。

 個人的には、其の二を先に読む方が、味わいが深くなると思います。

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北海秘話 魂藻物語 (其の二)

(其の二)

Shisam,uwepekere

KOMOM TUCHI

シサム。コモト゜チ

 胡盲媼 テコロタ ロ伝

 農童守 沙流山人 和訳

Pon wen shisam an.

ポン ウエン シサム  アン      
(ちい)さな 貧乏な 和人が居った。

(=註…大人になつてからも、ポンウェンシサムと人名の如く称す)

Machihi anwa oka, mip ka isam,

マチヒ アンワ オカ ミプ カ イサム   
妻と暮して居たが、着物も無く、


Epka isam, Ramma Pöka sakno oka,

エプカ イサム ラムマ ポーカ サクノ  オカ
  

食物も無く(極貧乏であつた)何時迄も子供が無いので

この上もない不幸であつた。
 あまりあまり淋しいので夫婦は犬(セタ)と猫(メコ)を飼うことにした。
 飼うには飼つたものゝ食はせるものが無いので、これまでよりもなほ一層のこと困ることになつた。
 
で、一生懸命、山へ行つて薪をとり、それを糠(ぬか)と取替へて糠粥(ぬかがゆ)に炊きそれで犬(セタ)と猫(メコ)を養ひ吾子(わがこ)のやうに大切に可愛がつてゐた。さうして飼つゐるうちに、自分達夫婦はだん/\年老(と)つて、犬(セタ)と猫(メコ)はだん/\大きくなつた
 
そのうちに猫(メコ)は犬(セタ)と一緒に村(コタン)を巡(まわ)り歩き、猫(メコ)は人の家に上り込んでもいゝものなので、人家に這入(はい)り、魚の頭や肉の附いた骨などをもつて来て外に待つて居る犬(セタ)に渡した、犬(セタ)はそれを自家(うち)の爺さん媼(ばあ)さんの許(とこ)へ運んできた。
 
犬は大層綺麗な毛色なので、人々はそれを讃(ほ)めながら、可愛がつて、魚のあまり肉の余物(あまりもの)、握飯の半分などを分けて呉(く)れるのを、直ぐ食べたりせずに家(うち)に持ち(銜(くわ)えて)かへり、かうして親のやうな老夫婦(とそりふうふ)を喜ばせながら養つて居た。
 
さうしてるうちに、犬(セタ)と猫(メコ)は、もつと大きくなつた。或日(あるひ)、猫(メコ)が犬(セタ)に相談を持ちかけて、『いつも何時(いつ)も、恁麼(こんな)ものばかりを父さん母さんに上げてるのぢや嘸(さぞ)つまらないだらう。どうだ、自分達ももう大分(だいぶ)大きくなつたのであるしするから、もちつといゝ仕事をしてもつと喜ばして上げようではないか、この辺にばかり居たんでは、これ迄(マンデ)の事より為様(しよう)もないんだから、これから一つ、大長者(ポロニシパ)の居る遠くの町へ行つてウンと稼いで沢山(たくさん)土産(ムヤンキ)をもつて帰らうではないか、えッ?、どうだい』
 
すると、犬(セタ)は直(す)
『ン、よかんべ!』
と賛成した。
 
それから二人で(アイヌではこゝで二疋(ひき)とは言はない)出かけた。
 
ズーット行つて、何処迄(どこマンデ)も行くと、偖(さて)困つたことに、行かうとする自分の前に、大きな川があつた。行くことが出来ぬので、猫(メコ)は、
『こりや困つた!』と叫んだ。
「困つたなァ」と犬(セタ)も哀れつぽい声を出した。猫(メコ)は凝然(じつ)と考へ込んだ。
「まつたく困つたことになつたなァ」犬(セタ)はまた呟(つぶや)く。
 猫(メコ)はやつぱり黙つて考へ込んでゐる。犬は独りで焦慮(やきもき)して、
「切角(せっかく)こゝ迄(マンデ)来たのに、思詰(おもいつ)めて切角こゝ迄(マンデ)やつて来たのに、こんなことになつて、全く困つたなァ、仕方がない、ぢや、もう帰るべ、え?、もウ帰るべや」
 遂到(とうとう)泣き声になつてしまつた。
 すると今迄(いまマンデ)凝乎(じっ)と考へ込んでいた猫(メコ)が、
「ハッハッハッハッ、……」
と笑ひ出した。そして言ふには
「何もそんなに困ることない、俺、さきになって泳ぐからお前は俺の尻尾銜(くわ)へてあとさ銜(つ)いて泳いで来(コ)ればいゝ……」
 と、さう言って川の中へ躍込(とびこ)んだ。犬(セタ)は猫の尾を銜(くわ)えてあとにつゞいた。漸(ようや)く向岸(むこうぎし)に渡りついて、また往(い)つて、行つて、ズーッと行つたら、大きな町が見えた。見たこともない大きなその町に着いて、その中で一番大きなカムイトノの屋敷に這入(はい)った。
 猫は家の中へ這入り、犬はお庭の辺をうろついてゐた。すると、女中らしいのが犬(セタ)を見つけて、
『まァ、綺麗な犬が居る、どこから来た犬だべ、可愛いゝこと…メンコイこと』
 さう言ひながら、一度家の中に入つて、また出て来た。魚の肉の附いた骨や御飯の旨さうなのを(糠粥でないところの)…沢山容器(いれもの)に盛つてきて下に置いた。家から出て来た猫(メコ)は先にそれを見つけて、
『さァ、こゝに沢山御馳走が出た!』と犬(セタ)に報せた。犬(セタ)はそこに来て、猫と一緒に今迄(いまマンデ)喰べたこともないいろ/\な御馳走にありついた。綺麗な犬(セタ)と綺麗な猫(メコ)とが頭(かしら)を並べて仲よく食べてゐるのを、そこのカムイトノが見て、
『恁麼(こんな)に綺麗な犬(セタ)と猫(メコ)、何処(どこ)から揃つて来たのか、二疋(ひき)とも、うちで飼つてやれ 
 
そして此頃(このごろ)、鼠の多いあの穀庫(こくぐら)の番をさせ、鼠獲(と)りをさせよう』
 
と、そして二人(二疋(ひき))はハルオプの中へ遣られた。
 
穀庫(ハルオプー)の中には沢山穀物(アマム)があつて、多くの鼠が集まつてる模様であつた。猫はこゝ一働きと、見る間に三疋四疋……片つぱしから鼠を捕り初めた。
 
(セタ)は、猫(メコ)の捕つたその死んだ鼠を一々庫(プー)の入口へ運んだ。
 
(メコ)は、鼠を捕つて捕りまくり、犬(セタ)も亦、目のまはる忙(せわ)しさで庫の入口にそれを運んだ。入口には鼠の死骸が山の様に積まれ、もう悉皆(すっかり)捕り尽くして一疋も居なくなつた。
 
庫の中は寂然閑(ひっそりかん)とした。もうコソッともしない。犬(セタ)と猫(メコ)は疲れ切つて憩(やす)んでゐた。
 
と、暫時(しばらく)して……ノソ……ノソッ……と変な跫音(あしおと)がどこからともなく聞こえる
『何だらう』
「ホニ何だべ?」
 二人は不思議さうに耳を傾けながら、その足音らしいのゝ近づく方を見て居た
 
一体何者(なに)が来たのか……と。
 
ノソ、…ノソ、…ノソ、…ノソッノソッノソッ!
 
穀庫(こくぐら)の薄暗い奥から現れ出たのを見ると、大きな大きな犬(セタ)ぐらゐもある怪獣(ばけもの)であつた。
 
コリャ大変な怪物(ばけもの)が出たわい…と、犬(セタ)はコワ/゛\友達の猫(メコ)の顔色をソッと見かへした。猫(メコ)も流石に駭(おどろ)いたけれども、さあらぬ体(てい)に……ナニ、これ鼠だもの…と心に思詰(おもいつ)めながらヂリ/\と怪物(ばけもの)の傍近く向つて行つた…歯牙(きば)を剥出(むきだ)しながら…
 
すると、大きな獣は、
「待つてくれ、暫時(しばらく)まつてくれ…」
『お前はいつたい何者だ?』
『俺はたゞの鼠ではい!
『お前はいつたい何だ!!
「俺はたゞの鼠ではない。 神様に霊通(つづい)てる王なんだから。…暫時(しばらく)まつて呉(く)
 
お前は……お前は俺の子供達を悉皆(すっかり)噛殺(かみころ)してしまひ、俺の妻(マチヒ)も喰殺し、親類(ウタリ)も悉(みんな)亡くしてしまつた。それで遂到自分が出て来たのだが、なんで斯様(このよう)に迄 噛殺(かみころ)してしまつたのか?」
 
猫はひるまずに、
『何を世迷言(よまいごと)(ぬ)かすんだ。俺はカムイトノの吩附(いいつけ)で、この庫の穀物(アマム)を食ひ減らして仕様のない泥棒鼠を捕りつくすのだ。さァお前も覚悟しろ!』
 
牙を剥いて喰付(くいつ)かうとすると、
「まァマア待って呉れ、俺はもう最後(おしまい)に残つた…たつた一疋の鼠なんだから、俺に歯向(はむか)つて決していゝことはない、俺を食はずにくれ、俺はたゞの鼠でない。俺は神さまに霊通(つづい)てるものだから」
『いや待たぬ』
「ンならば…俺のお守、お前にあげるから喰はないでくれ」
『何を呉れる?、何、呉れる、
 何も呉れないば、今直(す)ぐ喰ひ殺すぞ!』
「待つて呉れ、喰はないで呉れ。
 私の大切なお守をやるから。」
『何を呉れる?、何、呉れる、
 何も呉れないば、今直ぐ喰ひ殺すぞ!』
「待つて呉れ、喰はないで呉れ。
 私の大切なお守をやるから。」
『何を呉れる?、何、呉れる、
 何も呉れないば、今直ぐ喰ひ殺すぞ!』
「待つて呉れ、喰はないで呉れ。
 私の大切なお守をやるから。」
『何を呉れる?、何、呉れる、
 何も呉れないば、今直ぐ喰ひ殺すぞ!』
「待つて呉れ、喰はないで呉れ。
 私の大切なお守をやるから。」
『何を呉れる?、何、呉れる、
 何も呉れないば、今直ぐ喰ひ殺すぞ!』
「待つて呉れ、喰はないで呉れ。
 私の大切なお守をやるから。」
『何を呉れる?、何、呉れる、
 何も呉れないば、今直ぐ喰ひ殺すぞ!』
「待つて呉れ、喰はないで呉れ。
 私の大切なお守をやるから。」
 
と(六問六答論法(イワンシュイネチャランケ)はアイヌの神事)イワイソイ(Iwan,isoi)した。
 
大鼠(ポロエルム)は奥の方に行つて暫時(しばらく)してまた出て来た。
 
何か入つてるらしい綺麗な小さなサランベ袋(ブクル)をチャンと銜へてゐる。
 
(メコ)はこれを受け取つた。
 
大鼠(ポロエルム)
「その中にはピンネコモト゜チ(雄Pinne.)とマッネコモト゜チ(雌matne.)がある。それさへあれば何でも自由(かつて)に所有(もつ)ことが出来る。お前達が養はれた父母のために斯様(こう)したところまでンきてるのだといふことは、聴かなかつたけれども、俺は前刻(まえ)から見透(みとお)してよく識(し)つて居た。これを土産(ムヤンケ)に持ち帰つたらば お前達の養父母(ちちはは)である爺さん婆さんは什麼(どんな)に喜ぶかしれない。お前は先刻(さっき)、鼠が穀物(アマム)を盗食ひするといつて怒つたが、鼠が人間の穀物(アマム)を喰ふことは俺達の初め発生(でき)た時から神さまに許されてゐることなのだ。さう許されていることを邪魔して、その上、鼠を食殺すといふことは止めて呉れなければならない。
 
猫はそれに答へて、
『これからは、今日のやうに無闇には食殺すまい。だが鼠(エルム)達だからといつても、神様から許されてる事だからとばかりで、人間の切角(せっかく)働いて庫(プー)さ蔵(しま)つておく物を さう/\無闇矢鱈(むやみやたら)と喰ひ荒すことはいゝことではない。誰だつて、人間だつても、お互(たがい)所有物(もちもの)を盗られるといふことは、あまり気持ちのいゝもんぢゃあるまいからナ』
 
鼠と猫(メコ)達とは、そこで平和(おだやか)に訣別(おわかれ)した。

      

 猫(メコ)達は、もう鼠一疋もゐなくなつた庫に用も無いことだし、それに爺さん婆さんへ持つて帰るいゝ宝の土産物(ムヤンギ)ができたのを喜んで、役済(やくずみ)の気軽さと、嬉しさに 犬(セタ)と相談して早速帰ることにした。

 猫(メコ)は又(また)先になつて コモト゜チ二つ入れたサランベブクルを口に啣(くわ)へ、犬(セタ)もそれに蹤(つ)いて行った。
 もと来たときの、あの大きな川のほとりにきて二人(二疋)ともまた駭(おどろ)いてしまった。上流(かつち)の方に雨が降りつゞいた為か、ワッカポロ(大水)して迚(とて)も渡れさうにない。

 犬(セタ)は落胆(がっかり)した。こゝ迄(マンデ)切角帰り着いたのに、この川渡れさへすれば直ぐにも爺さん婆さんの許(とこ)さ躍(と)んで行けるものになァ……ホニ、きもやなァ……と。

 猫(メコ)も今度こそは、困つたけれども元気をつけて言つた。

 『よし!、行かう、行けないことはない、俺の尻尾を銜(くわ)へて後からつゞいて泳いで来い』

 

 と、それから猫(メコ)はサランベプクルを確乎(しっか)と啣(くわ)て先づさきに水に入った。犬(セタ)も後につゞいて猫(メコ)の尾を銜(くわ)へながら泳ぎ出した。水出が大きく、流(ながれ)が強いので、二人ともズン/\流された。流されながらも向岸(むこうぎし)に近づいたが、渡りつくにはまだ/\距離(ま)があつた。 

 猫(メコ)はたび/\元気のない犬(セタ)のことを心配して、尾から離れないか、離れて流されはしまいかと、あと振向いた。犬(セタ)はついて来てる。

 流れ流れて、流(ながれ)の一層強い個所(ところ)に来たが、岸までもう少しであつた。猫は又犬のことが心配になつてふりかへり、

『もう些(すこし)だ。確乎(しっかり)してっ!』

と気勢づけを言つた。

 犬(セタ)も猫(メコ)もやつと岸についた。身体の水を振落(ふりおと)しながら……さァこれから爺さん婆さんの許(とこ)へ急いで帰るのだ……と二人とも顔見合はしてニツコリしたが猫(メコ)は覚えず…ハッtとした。大事な大事なサランベブクルがない。

 先刻泳いでゐながら『もう少しだ確乎(しっかり)して!』と犬(セタ)を顧(かえり)みながら叫んだ時、思はず口をあいて…その時口から外して流してしまつたのだ。あまり岸に泳ぎ着くことばかりに気をとられ、一生懸命だつたので 口から外したことに気が附かなかつたのだ。

 犬(セタ)も今度こそ全くがつかりしてしまつた。

 爺さん婆さんは什麼(どんな)にか自分等を待ちあぐんでることだらう。年老(とっ)て働けなくなつてから、永い間二人でいろ/\お世話してたのを、フッツリ止(や)めて旅に出たのだから、老い衰へた二人は其後(そのご)食ふものも食はずに居るのではあるまいか、それが今かうして切角(せっかく)立派な宝物を二個(ふたつ)とも土産に持つて帰り、みんなで喜ばうとして来たのだつたに恁麼(こんな)ことになつてしまつた。どうしよう、どうしよう。ほんとに…。

 泣くにも泣きだされず、涙一ぱいためて、すつかり萎気返(しょげかえ)つて了(しま)ひ、流石(さすが)気丈の猫(メコ)でさへも今は全く途方に暮れてしまつた、この川を渡つたら…渡りさえしたら、何も途中心配なく爺さん婆さんの許(とこ)へ帰りつくばかりだつたのに……と、くやしくて/\どうにもかうにもしようがな[か]つた。けれども此儘(このまま)空手(からて)で帰る気にはどうしてもなれず、兎も角、川口まで下つて何か一つ見つけようと、岸づたひに下つて行つた。

 犬(セタ)と猫(メコ)は今迄のことに泣悲(なきかなし)み、また爺さん婆さんの此頃(このごろ)を思ひ案じながら、泣語(なきがた)りに下り下つて、遂到(とうとう)浜に出た。何かあれば…とその辺を歩いてると、渚の砂の上に一尾(いっぴき)のエレクシが死んでるのを見た。大きな大きな鱈(エレクシ)だつた。それがまた途方もない大きな腹をしてゐた。

『恁麼(こんな)大きな鱈(エレクシ)、今迄(いままんで)(まん)だ見たことがない。これでも持って一先づ家に帰り、爺さん婆さんの顔を見てから又(また)何とかいゝ考(かんがへ)を立てる事にしようふゃないか』

と代(かわ)り代りその魚を銜(くわ)へて元来た路を急ぎ帰つた。

 帰つたら、爺さん婆さんも待ちあぐんでゐたのだから、それはそれは喜んだの喜ばないのって今迄(いままんで)見たこともない笑顔で迎へて呉れた。

 二人は早速土産の鱈(エレクシ)を出した。婆さんが先ず料理に取掛かる、「まァこの魚の腹の大きなこと……」さう言ひながら膨れた腹に庖丁を当てたかと思ふと、「オヤッ」、中から思ひがけないものが出た。

 サランベ袋(ブクル)が出たのである。猫(メコ)は急いでかけ寄つてその中を覗く…と見るまに…コモト゜チをとり出した。

 ヨーろこんだの喜ばないのつて、それをもつて爺さんの前に高くもち上げ、婆さんの前へ行つては振りまはして見せ、クル/\跳廻(はねまわ)つて二つのコモムト゜チを手玉にとつて踊りはじめた。

 犬(セタ)も一緒になつて踊り出した。

踊疲(おどりつか)れてから猫(メコ)は炉の傍に来て密(そっ)と犬に耳囁(みみうち)して

『お前は火媼神の近侍(トンデ)(トンチは和語通辞?)なんだから神(カムイ)に一応礼祷(イノンノ)して、爺さんに上げろよ、それからこの婦性(マトネ)コモト゜チmat ne kom-m tuch』の方は、

 
……インネマチヤ――(Inne machiya.
 
……ウタリコエウン――(Utari koeun.
 ……アンタキ!(Antaki!


 セコロハエアンコロ、エシリキせば、インマチあるんだから、また、夫性(ピンネ)コモムト゜チ(
Pin ne komom tuchi)は、
 

 ……タンウシケタ(
tan ushiketa.
 
……イワンハルオプー(Iwan haru opu.
 
……イワンカニオプー(Iwan kani opu.
 
……アンタキ!(Antaki!

と、言って、エシリキ(
Eshi rikk、槌打)せばよい』
 

 
犬(セタ)はそれを聞いて教へられた通り火神(アペフチ)に通祷(イノンキ)して、槌打(エシリキ)の言葉を添へて爺さんに捧げた。爺さんは、ラタイワイスイ(低位掌抄六礼、Rata iwan isui) リキタイワイスイ(上位抄掌六礼、Rikita iwan isui.)捺掌礼(オンカミ)してそれを受けた。

 それで収めて爺さんも婆さんも犬(セタ)も猫(メコ)も大ニコニコに喜んだ。

 爺さんはマッネコモト゜チとピンネコモト゜チを持つて外に出た。山の気色(けしき)、川の気勢(けはい)、野の具合を見計ひ、こゝらに村(コタン)が出来ると好(い)いな…と思はれる個所を見て、そこに佇(た)った。そして先づマッネコモト゜チを右手に身構へた。


「……インネマチヤ
 
……ウタリコエウン
 
……アンタキ!」


と叫んで槌打(エシリキ)したら、立派な沢山な家がズーッと出来て、そこにガヤ/\と人の話声(はなしごえ)が賑かにして、軈(やが)て方々の家から人々が出て来る。次ぎにピンネコモト゜チをとつて、


「……タン、ウシケタ
 
……イハンハルオプー
 
……イワンカニオプー
 
……アンタキ!」

 
と朗らかに言つてエシリキしたら、大きな穀庫(ハルオプー)が六つ、大きな金蔵が六つ、ズラリと並び建つた。

 四人はこれを見て足踏み鳴らして踊り喜んだ。大長者になつた爺さん婆さんは、自分の創りなした村中の者らに神人(カムイニシパ)のやうに尊ばれ、犬と猫とを可愛がりながら何不自由なく楽しく暮らすことが出来た。


(をわり)

 

 

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